2005年12月11日

[3] 身の上

「此処から信州の方に300メートルと言えば、あの細川某とかいうバカでかいお屋敷か?」

「そうだ。」

「それじゃお前なにか?、元々は由緒正しいお屋敷の座敷猫か?」

「そうとも言う。が、正確には、お屋敷の裏手に使用人の番小屋があってな、オレはそこの生まれよ。」

番小屋・・・? まあ、いいか。話の腰を折るのはよそう。

「・・・ サーヤは正真正銘お屋敷の飼い猫でな、オレとは兄妹同様に育ったもんよ。
『ライトおにぃちゃん、待ってェ!アッ!サーヤころんじゃったぁ!』
『だいじょーぶか、サーヤ?痛くないか?』
『エーン!歩けないぃ』
『よしっ!おにぃちゃんがおんぶしてやる』
とまあ、そんな毎日を過ごしておったが・・・」

気持ち悪い声で、身振り手振りで説明しやがる。一生やってろ。

「お前、ホントの名はなんていうんだ?」

「しんきち」

「・・・。 サーヤは・・・?」

「お花」

「・・・そ、そのお花ちゃんが何で山本さんちでみーちゃんになってて、しんきちが野良猫ライトなんだよ?」

「家出した。」

「お前がか?」

「サーヤだ・・・」

     + + + 中 略 + + +

「・・・月日は流れ もう2人とも良い年頃でな、サーヤはオレと添い遂げると言うておったがオレには身分の違いっつーもんがわかっていた。ある日主人筋の徳永のドラ猫に見初められてな、お父上も断ることができず了承したわけよ。その晩だった、サーヤがいなくなったのは。」

番小屋とやらの裏の、小さい頃よく遊んだ柿の木の枝に「・・・かくなる上は出奔いたし何処か遠くで幸せになります。願わくばあの世とやらでしんきち様と晴れてめおとになりとうございます。早々、かしこ。」という書き置きがあったそうだ。

「それで?お前も後を追ったというわけか?」

「まあな。かぁちゃんが握り飯を作ってくれたし。」

「よく見つけたな。」

「猫の習性、そう遠くへは行かんし、書き置きに地図も書いてあった。屋敷に出入りしていた魚屋のゴンや仲間の猫からの情報もあったし。」

予報は外れたらしく、雨も降らないし雷も何時か遠くへ去っていた。
と、
「フミャァァァー」
という声が庭先から聞こえる。お花、いやサーヤだ。

「んじゃ、オレ行くわ。世話になった。今日のことは忘れてくれ。」

そう言うとライトは雑巾で足を拭いて窓から身を躍らせた。外を見るとすっかり雲は取れ、ご丁寧に何かの細長い葉っぱをくわえて月を見上げたしんきち改めライトと、わずかに遅れて寄り添う真っ白で何処か儚げなお花、いや、サーヤが闇の中へと消えて行くところであった。
posted by Sachi at 15:51| ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | └RIGHT | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年10月19日

[2] 雷

今日は記録的な暑さだそうだ。午後から日が陰って日射しはそれほど強くないのだが、たしかに蒸籠で蒸されるぶたまんの如く暑い。しかも夕方になると傘が不要なほどのどしゃ降りになるらしい。そういえば遠くで雷が鳴っている。


外出先から戻ると、雌猫の尻でも追いかけて行ったのか、いつもの場所にライトの姿がない。この暑いのにご苦労なこったと思っていると、自転車置き場の隅の方から

「フニャニャァ・・・」

と情けない声がする。

「なんだ、そんなところで。暑いだろう?」

と一応声だけかけて中に入ろうとすると、心なしか淋しそうな目をしている。

「なんじゃい?」

「へそ・・・、いや、友達のサーヤが腹痛で腹巻き・・・、うんにゃ、蚊が多いので蚊帳を・・・」

「ぁん?」

どうやら雷が恐いらしい。

「お前、雷が恐いんだろう?」

「何を言うか!嫌いなだけだ。」

「だったら、なんでへそなんだよ!」

「・・・」

とにかく今日だけの約束で中に入れてやることにする。ところが玄関のドアを開けてやっても、ヤツは動こうとしない。痩せても枯れても野良猫なので、表からは入らないそうだ。部屋の窓を開けてやると庭から辺りを憚るようにして入ってきた。

「そこに雑巾があるだろ、足拭けよ。」

「帰る時に拭く。」

・・・叩き出すぞ!ったく、ばか猫が!!



「で、友達のサーヤがどうしたって?」

あの猫この猫見境がないのかと思ったら、そのサーヤという猫がどうも本命らしい。そういえば1日1度は覗きに行くようだ。ただ、家の人は確かみーちゃんとかそんな風な名前で呼んでいたようだが。

「サーヤ?」

「腹痛なんだろ?」

「そんなことは言ってない。」

「ふ〜ん。晩飯はカレーだからな。あっついヤツ。」

「なんでだ?カツオのたたきがあっただろう?早く食わないと腐るぞ。」

「明日までだいじょうぶだ。ホッケもアジの干物もツナ缶も今日は食わねえ。」

「わかった。じっくり話し合おう。」

仕事を片付ける間、ヤツはソファーのクッションの中に潜り込んで昼寝を始めた。時折響く雷の音にも耳をぴくつかせるだけで、へそを隠したので安心なのか、目を覚ます様子はない。やれやれ今日はこいつと飯を食って、一緒に寝るのかと思うとなんだか不思議な気がした。
posted by Sachi at 01:12| ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | └RIGHT | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年10月15日

[1]出逢い

元々はシャチョーが暇に飽かせて書き留めた物ですが、どうも放置しっぱなしのようなので、この機会にちょっと手直ししてみることにしました。
当然全てが事実ではないにしろ、「お花」と「しんきち」に端を発するわが家のネコ騒動はここから始まったんである。


[RIGHT] リメイク版

ネコ放浪記



登場人(猫)物

ライト

野良猫。白・黒のブチ。本名「しんきち」。オレのマンションに住み着いている。

サ-ヤ 元は由緒正しいお屋敷の飼い猫。家出し、現在山本家でみーちゃんと呼ばれている。本名「お花」
オレ マンションの一室に事務所を構える社長。



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うちのマンションには猫が住み着いている。誰かが飼っているというわけではなく、いつの間にか付近を縄張りに居ついた野良猫である。

煙草が切れたので 散歩がてらに買いに行こうと玄関を出ると、いつものように階段の下に寝そべっている。めんどくさそうに顔をねじ向け、それでも片目をうっすら開けて「ニャ」とか言うようになったのは最近のことだが、恐ろしく無愛想で、しかもかなりふてぶてしいヤツである。体もでかい。郵便配達のあんちゃんに邪魔だと言われても、保険の勧誘のオバサンに「まあ、汚い猫ね!」と蔑むように罵倒されても一向に動じる気配など無く、また そのあまりにでかい態度故、蹴飛ばしたりしてあえて強硬手段に出ようとする者もいない。

ちょうど仕事も一段落し 何とはなしに気にはなっていたので、今日はひとつじっくり話してみようかという気になり、玄関の石段に腰を下ろす。ヤツの鼻先から1m程のところだ。

まず名前を聞いてみると、わりと素直に答えたが、ライトだとぬかしやがる。白と黒のブチで、白い所は灰色に黒い所も灰色に薄汚れた風貌で、眠そうに目の細い思い切り和風の猫のくせに何がライトだと思いつつ、

「明るい方か?」

と尋ねると、RIGHTだと言う。右ではなく、「正しい」とかそんな風な意味らしい。しかも「ライト君」と呼んで欲しいそうだ。生まれは信州の方だという。

「長野県か?」

「いや、此処から信州の方に300mぐらい行った所だ。猫は遠出しない。」

ふざけた野郎だ。

「何故此処にいる?」

「涼しい。」

・・・成る程。

「無駄口叩いてないで、さっさと煙草でも買ってきて仕事したらどうだ。」

かわいくないヤツだ。

いつもは自動販売機で買うのだが、ふと店先を覗くとカッパえびせんが目に入る。1番小さい袋を買って帰るとヤツは日射しを避けて玄関の前に移動していた。

「えびせん食うか?」

「そのために買ってきたんだろう。」

・・・むかつく野郎だ。
posted by Sachi at 01:28| 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | └RIGHT | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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